彼女を10日でオトします
「あの女も……倒れた……?」

 たすくさんの震えた声は、見開かれたとから取れる驚きからくるのもなのか、眉間に寄せられたシワからとれる怒りからくるものなのか、判然としない。

 それでも、平常を保ってはいないことだけははっきりとわかった。

「うん……。今、病院にいる……。
目が覚めしだい、逮捕されると……」

 たすくさんに視線を向けずに呟いた琴実さん。
 たすくさんは、小刻みに喉を震わせて大きく息を吸った。 

 どういうことなんだろう……?

 たすくさんのお母さんと琴実さんのお兄さんが一緒に倒れてた?

 脳裏にたすくさんの言葉がよぎる。

 あれは確か……、私がトイレに閉じこもったとき。

 『知りたいんだよ。恋や愛がどれほどのモノか、はたして我が子を捨てなきゃいけないほど大きなモノなのか、って』

 たすくさんは、そう言ってた。
 たすくさんのお母さんは、琴実さんのお兄さんと……?

 肩に入った力を抜くように、たすくさんは目を閉じて、ゆっくりと長い息を吐く。その仕草は、吐息が溜め息に変わるのを阻止しようとしているようにも見えた。

「で、生きてるの? あいつら」

 再び目を開けたたすくさんは、何事も無かったかのような平然とした表情になっていた。その口調も、ジャムの瓶を指差して「あいてるの?」と聞くときみたいにあっけらかんとしたものだった。

 それが余計に、胸に迫る。

 琴実さんは、力強く頷いた。

「……ふうん。
まあ、どっちでもいいんだけど、ね。
それよりさ、琴実、クサ」

 琴実さんの肩に一瞬力が入り、それから、ブレザーの内ポケットに手を入れた。

 ……煙草?

 琴実さんの手のひらには、ビニール袋に入った煙草が3本。
 たすくさんは、何の躊躇も無くそれを掴み、一歩、二歩と、扉に向かって歩き出した。


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