彼女を10日でオトします
ヒデさんは、琴実さんを抱き寄せながら、
「たすく……、殴って悪かった。
ついカッとなって……」
たすくさんの背中に向かって、そう声をかけた。
「ヒデはさ」とたすくさんは立ち止まって天井を仰ぐ。「いっつも正しいんだよ。いいよなあ、ヒデは。正しいことに正直で。俺も、ヒデみたいに生きてこられたらよかったのになあ……」
そう、呟くように語るたすくさんの背中は、どこか儚げで、主人を失ったゴム風船のようでもあって……。
私の知らない場所へ、ふいっと、消えて行ってしまいそうな気がした。
その寒々しいブレザーの背中に、声をかけなくちゃ、と思えども言葉が浮かばない。
言葉が浮かんだところで、果たしてそれを口に出来ただろうか。否。
こんなにも寂しい背中を持つ人を「最低」の一言で突き放してしまった私に、その権利があるとも思えなかった。
たすくさんは、扉の鍵に手をかける。
だめ。行ってしまう。
「たすく、どこ行くんだよ」
「貴史ちゃん、呼んでくる。
ヒデ、悪いけど、琴美のこと頼むわ。
充分水分取らせて、寝かせておいてやって」
がちゃり。鍵が開く。
行かないで! そう思った瞬間、たすくさんが振り向いた。
「キョン、ほんとごめん。
こんなことに巻き込んじゃって……」
胸が詰まる。
何て答えればいいんだろう。
肯定しても、否定しても、薄っぺらなものになってしまう気がした。どんな答えも、たすくさんを傷つけてしまうんじゃないか。
そんなことばかりが頭に浮かんで何も答えられずにいると、一瞬、困ったような寂しげな笑みを残して、たすくさんは背中を向けてしまった。
静まる保健室に、扉がレールをすべる音だけがこだまする。
「たすく……、殴って悪かった。
ついカッとなって……」
たすくさんの背中に向かって、そう声をかけた。
「ヒデはさ」とたすくさんは立ち止まって天井を仰ぐ。「いっつも正しいんだよ。いいよなあ、ヒデは。正しいことに正直で。俺も、ヒデみたいに生きてこられたらよかったのになあ……」
そう、呟くように語るたすくさんの背中は、どこか儚げで、主人を失ったゴム風船のようでもあって……。
私の知らない場所へ、ふいっと、消えて行ってしまいそうな気がした。
その寒々しいブレザーの背中に、声をかけなくちゃ、と思えども言葉が浮かばない。
言葉が浮かんだところで、果たしてそれを口に出来ただろうか。否。
こんなにも寂しい背中を持つ人を「最低」の一言で突き放してしまった私に、その権利があるとも思えなかった。
たすくさんは、扉の鍵に手をかける。
だめ。行ってしまう。
「たすく、どこ行くんだよ」
「貴史ちゃん、呼んでくる。
ヒデ、悪いけど、琴美のこと頼むわ。
充分水分取らせて、寝かせておいてやって」
がちゃり。鍵が開く。
行かないで! そう思った瞬間、たすくさんが振り向いた。
「キョン、ほんとごめん。
こんなことに巻き込んじゃって……」
胸が詰まる。
何て答えればいいんだろう。
肯定しても、否定しても、薄っぺらなものになってしまう気がした。どんな答えも、たすくさんを傷つけてしまうんじゃないか。
そんなことばかりが頭に浮かんで何も答えられずにいると、一瞬、困ったような寂しげな笑みを残して、たすくさんは背中を向けてしまった。
静まる保健室に、扉がレールをすべる音だけがこだまする。