ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)
結局、部活が終わる時間まで教室に残っていた私たちは、チャイムが帰宅を促す放送が入ったことで勉強を切り上げ、3人で帰路に着いた。


うっすらと夕焼けの匂いを残した空は、まるで露が光るような星を包み、心地よい風が私たちの髪を撫でる。


「うぁー、疲れたぁ」


篠宮くんが右隣で体を鳴らす。


「これくらいでへばってちゃ駄目だよ。明日はもっと問題こなさなきゃいけないんだから」


「いいんちょーって顔に似合わずスパルタだよね」


「そんなこと……」


「なんで最後濁すの」


篠宮くんに突っ込まれて、私は肩を竦めてみせる。


多少厳しめに採点したのは否めないけれど、志谷先生ならもっと酷いだろうから、予行練習だ。


「三神くんも、明日は寝ないでください」


「……バックレようかな」


三神くんはぽつりと呟いた。


む、と口を曲げると、三神くんはけたけたと笑って先を行く。


本気か嘘か分からないことを言うから、三神くんは難しい。


こちらばかり振り回されて、でもそれが嫌じゃなくて。


三神くんの隣は意外と居心地がいいってことを、私は知ってしまった。


不思議な人だ。


男の人にしては細めの背中を眺めながら思う。


「いいんちょー?」


篠宮くんが私の顔を覗き込む。


つられて振り返った三神くんと目が合って。


「あ……いえ、絶対8割取って遠足行けるようにしたいなって……」


私がそっと言えば、篠宮くんは「あったりまえよ!」とピースサインで応えてくれた。


三神くんは目を伏せて微笑む。


その姿に、私は何故か胸がぎゅっと締め付けられるのだった。
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