ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)
三神くんは優しい。


いつもふらふらと寄り道をして、みんなと違う方向を向いて、バラバラのペースで歩くけれど、私が振り向いたらちゃんと背中に手を添えてくれている。


その手は驚くほど素直で、穏やかで、泣きたいほどに温かい。


気が付けば、涙で視界が滲んでいた。


「あ、れ……」


はたはたと落ちる涙に、指の腹で触れる。


安堵から胸につっかえていたもやもやが晴れ、気が緩んでしまうと一瞬だった。


泣くつもりなんてなかったのに。


ほら、三神くんだって困ってる。


私は一生懸命に止めようとするけれど、涙は簡単に止まってくれない。


どうして、と焦る私の顔に、突然何かがぶつかった。


それは軽く頭に乗り、そしてずり落ちて膝に当たる。


拾い上げれば、見慣れた詰襟の黒が視界に広がった。


「あんまり泣くと枯れんぞ」


手を頭の下で組み、のんびりと目を瞑って寝転んでいる三神くん。


「使ってないから多分綺麗」


ついでのように付け加えられた言葉に、唇からあはっ、と笑い声が零れ落ちた。


「それはいつも校則違反してるから」


私はそういうと、きゅっと唇を結ぶ。


溢れる涙がぽろぽろと手の甲に落ちて、でも泣き顔を見られたくもなくて、私は三神くんの制服で顔を隠す。


三神くんはもう何も言わなかった。


ただ私の涙が止まるまで、三神くんは私の傍にずっと居てくれた。
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