Love Eater Ⅲ


「………素敵ね」

「………えっ?」

夜音の反応にどこか畏怖を覚えていた最中。

不意に鼓膜を掠めた柔らかな一言には思わず顔を上げてしまっていて。

そうして対面した夜音の顔は軽蔑に歪むどころか……、

「自分を無駄だと思っていた子がこんなに強く欲を持って生に執着をみせるなんて。……誰かを愛せる子になったなんて」

「……夜…音?」

「……フフッ……少し…擽ったい。でも……すごく嬉しくて…熱い」

「………」

「私…これでも焦っていたのよ。大きくなるにつれてあなたはどんどん素敵な男性になっていくから。母としてその成長を喜ぶと同時、焦れて歯がゆい感情も確かに大きくなってきていたから」

「っ……それ…」

「……愛してるわ、時雨。母として、姉として、…女としても」

「夜……っ…」

「だから………一緒には連れていけない」

「っ__!!!?」

夜音からの告白に感極まったのなど一瞬の事。

次の刹那にはぐらりと視界は歪み、立つことさえままならなかった身は無情にも床に倒れこんだのだ。

それでもまだ、ぼんやりと意識ばかりは現実に留まっており。

自分をのぞき込む夜音が悲し気に微笑み『ごめんね』と告げているのは覚えている。

そして、しっとり優しく押し重ねられた口づけも。

そのまま流れる動作で夜音の唇は自分の耳元に寄せられて、

「私の血肉を食らって。………私を探して?……来世は…貴方のために」

耳に吹き込まれたそんな一言が夜音が僕に向けた最期の言葉。

抗おうにも意識は途切れ。

目を覚ました時には領主の館のある地へと一心不乱に走り抜けたというのに。

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