Love Eater Ⅲ
自分は夜音とは違うのだ。
夜音が望むからその行為を手助けしていただけで、自分の心に他者への慈愛の精神なんてものはない。
夜音だけが自分の全て。
夜音の為に生き、尽くすことが自分の存在する理由。
夜音にも、他人ではなく一番に自分を見てほしいのに。
気持ちを察して、僕だけの夜音でいてほしいのに。
他人に干渉せず、他人からも干渉されず、ただ二人で普通に幸せに…。
「っ……」
「時雨、」
「っ……愛してるんです。……母として、姉として……異性としても」
「………」
「だから…お願いです。……行かないで、……僕と一緒に逃げましょう」
情けなくも涙を滴らせながらの懇願…哀願であったと思う。
成長した自分の手ではすでに華奢で小さく感じる夜音の手を握って。
この手を放してしまえば会えなくなるような予感がして。
そしてその予感は確信にも近くて。
僕は夜音を見つめるのが好きだったのに。
いつでも無意識にその姿を目に移しこんでいるほど。
7年たっても昔と変わらず愛らしいとさえ感じるその顔立ちも。
ずっと目を逸らさずに見ていたい。
そう思う程好きであったのに。
どうしてか、その瞬間は夜音の顔を見るのが恐ろしくて。
どんな表情でどんな言葉を連ねるのかが恐ろしくて。
落とした眼差しが見つめていたのは握りしめている夜音の指先ばかり。