Love Eater Ⅲ
その感情のまま手を伸ばしたのは無意識の内。
伸ばした指先があと僅かで薄紅の頬に触れようとした刹那。
今まで固く閉ざされていた目蓋が静かにゆっくりと開かれ、それまでの眠りの名残りなどまるで見せずにソルトを捉えて見据えてきたのだ。
透き通る様な水色の無垢な双眸。
濡れ羽根色の長く艶やかな髪は片方だけ耳にかけられそこにも白百合が髪飾りの様に一輪。
黒衣の使用は和装なのか洋装なのか。
着物の様な前合わせを帯らしき物で緩く縛って纏めてある。
ああ、本当に美しい。
そんな風に気がつけば惚けてしまっていた一瞬。
沈黙を先に破ったのは、
「…お初にお目にかかります」
〝彼女〟の方。
聴き感触の良い愛らしい声音も、見目麗しい容姿も馴染みがある姿であるのに馴染みがない物。
「あんたが…花鳥さん?…その六花の…」
「六花と名付けて頂いた者を産み落とした女になります」
「う、産み落としたって。普通に母親って言やいいんじゃねえの?」
「いいえ。母などどうして名乗れましょう。私はあの子を文字通り産み落としただけ。自分の身勝手のままに育み産み落としながら母として与えるべきものは何一つ与えなかったのですから」
凛とした声音で連ねられる言葉は淡々と。
その表情は終始無表情で、下手したら瞬きすらしていないのではないかと目を凝らしてしまう程。