Love Eater Ⅲ
百夜の意識下なんて状況でなければ、なんらかの罠ではないかと詮索の一つでもしていただろう。
でも、現状そんな疑ぐり深くなる必要のある危険な事情などはない。
だからこれまでと同じく、嗅覚を信じそちらに進むと躊躇いもなくそのドアノブを捻ったのだ。
その刹那、
「っ…甘っま…」
思わずそんな言葉を漏らす程の甘い香りがソルトの嗅覚を刺激し。
暗闇ばかり捉えていた視覚にはこれまた真逆に眩い程の白色が広がってくる。
甘い!
でも、六花の匂いの様な甘さじゃない。
これはもっとごく自然に溢れる匂い。
自然の草花から香るような……、
「……白百合だ」
何の匂いだったかと答えを打ち出すより早く、視覚がその疑問に答えるように白色の正体を捉えていた。
辺り一面白百合の園と言っても過言ではない。
なんなら踏みしめている地面はまるで分厚いガラス板の様に透き通っており、その中にまで白百合の群生が広がっているのだ。
まるで清廉潔白を形にした様な空間。
今度は見渡す限り白光に包まれ白百合の香りに満ちている。
そんな空間だからして、異物や異色が混じればすぐに気がつくと言うもの。
まさにソルトの視覚はそれを捉えてすでに歩み寄り始めているのだ。
白百合が咲き溢れる中の異色である黒い箱。
人ひとり入るサイズのそれは棺と言って間違いないだろう。
その傍にまで寄ってみせれば、捉えるのは馴染みのありすぎる愛らしく美しい姿。
ソルトの意識からすれば、
「……六花、」
その、恋しい姿である。