オトナだから愛せない
「あのなぁ、29歳のおじさんがそんなこと言う理由なんてひとつしかないの」
「皐月くんは、おじさんじゃない」
「女子高生からしたらおじさんだろ」
「で、理由とはなんですか?」
「なに?」と問えば「はぁー」と、盛大にため息を吐き出された。その顔でさえ綺麗だからむかつく。なにが、29歳だ。なにがおじさんだ。
その見てくれでおじさんだなんて世のおじさんに謝ったほうがいいと思う。
じっと下から皐月くんの瞳を見つめる。するとまた「はぁー」っとため息を落とされた。
なに?皐月くんさ私の顔を見るとため息を吐きたくなる病気かなにかですか?
「(いっちょ前に、上目遣いで見上げてきやがって、いますぐ押し倒す)」
「ねぇ、皐月くん教えてよ」
「お前には絶対、教えない」
「ねぇ、なんで?なんでそんなに意地悪なの?」
「うるさい黙れ」
「ねぇ!」
「(お前からの連絡が嬉しくて、でも恥ずかしいから照れ隠しで悪態ついてるなんて、死んでも言わない)」
皐月くんは、何度聞いてもその先は教えてくれず観念した私が「じゃあ、明日は会社に行く前に行ってきます言いに来て」とお願いすると「俺が行く時間お前、まだ寝てるだろ」と、どうやら私に気を使ってくれていた皐月くんの優しさに触れてしまった。
私が皐月くんを嫌いになることなんて、やっぱりどう頑張ったって無理な話で。
「じゃあ、早く寝ろよ」
「はーい!おやすみなさい」
「おやすみ」
そうして私たちは、今日もいつも通りお互い別々の家に帰るのだ。
