オトナだから愛せない
「泣くのだけは勘弁して」
電車を降りて家までの帰り道。突き刺すような冷たい風に身を縮こませながら歩いていればコートのポケットの中で突然震えたスマホ。

「どうした?」
《さ……グスッ……さつき、くん?」
「胡桃?どうした、泣いてるのか?」
《さつき、くん……助けて……》
「なにがあった!?いまどこだ?」
《い、家……》
じわりと掌に汗がにじむ。寒いのなんか忘れて、ガラにもなく全力疾走した。
「胡桃!いますぐ行くからこのまま通話にしとけよ!絶対切るなよ!」
《……グスッ、ヒック……》
「胡桃!」
なにが起きてるんだ?なんで胡桃は泣いてるんだ?家に誰か来たのか?なにかされたのか?
頭の中を巡るのはそんな悪い想像ばかり。
冷静でなんかいられるわけがない。