オトナだから愛せない



目の前に立っていたのは、いつものさらさらの黒髪を少し雨に濡らして珍しくウネウネさせていた皐月くん。水も滴るいい男なんて認めないぞ私は。私にもその綺麗な横顔をお裾分けしろ!




「バカ」

「……え」




そんな皐月くんからの第一声は私を傷つける為だけに発せられた言葉だった。え、いきなり、バカって、バカって、バカ?




「いきなりバカとはなにさ!」

「お前いま、ドア窓から俺の姿、確認する前に開けただろ!」

「……え、と、はい」

「なにしてるの、どうするの開けて知らない奴だったら」

「え、でも大いに知ってる皐月くんだし」

「バカ」




バカ、バカって、皐月くんはいったいなにをしに来たんだ。髪の毛もスーツも濡れたままで、まさか私を罵りにだけ来たわけじゃあるまい。




「皐月くん、早く帰ってお風呂入った方がいいよ。風邪ひくよ」




さらりと、バカという言葉には触れず皐月くんにお帰りいただけるような流れに持っていこうとした。



だって、皐月くんの後ろでは雷ゴロゴロ、ピカピカ、雨ジャージャーの悲惨な光景が広がっていて私は早く雷から逃れたかったのだ。


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