オトナだから愛せない
「君が選んでくれたから」
「皐月くん、どれにする?」
「ん、あー、なんでもいい」
胡桃のお泊まり勉強会を阻止した結果、約束通りスーツショップに胡桃と一緒に来たはいいものの咄嗟にスーツが買いたいと嘘をついてしまった情けない俺。
スーツは結構持っているから、今のところ新しいのはいらないんだけど。泊まりを阻止する為に嘘をついたなんて、そんなかっこ悪いこと知られたくない。
「なんでもよくないよ!」
「(しまった……適当に返しすぎた……)」
「私、スーツ着てる皐月くんかっこよくて好きなの!だから皐月くんに似合うやつ選ぶね」
「……」
思わず面食らった。さらっとそんなこと言うのは反則だ。
「あ、あれ、皐月くんに似合いそう!」
「走るなよ」
スーツショップが珍しいのか終始楽しそうな胡桃。かかっているスーツを手に取り自分に当てて鏡を見つめるその姿が可愛らしい。
「皐月くん、これ似合いそう!」
先に駆けて行った胡桃は俺が持っているグレーよりもワントーン暗めのスーツを手にした。腕を伸ばし距離を詰める俺に合わせる素振りをする。