オトナだから愛せない
「どうかな?」
「でも俺、グレーのスーツ持ってる」
「知ってるよ!でもあれよりチャコールっぽいよ!」
胡桃の元まで到達すれば「やっぱり似合う」と嬉しそうな声を響かせた。
「皐月くん、グレーのスーツがいちばん似合うよね!もちろん、ネイビーも似合うんだけど、個人的にはグレーが好き!あ、こっちも似合いそう?」
「(やばいな。買うつもりなかったのに)」
それから何着も、まるで着せ替え人形のように「ちょっとこれ着てみて」とジャケットを渡され言われるがまま試着をする俺。こういう買い物の仕方も悪くないと思った。
「やっぱり、最初のが皐月くんにいちばん似合う」
「そう?」
「あんまり気に入らなかった?てか、ごめん私が勝手に選んで、皐月くんも自分が好きなの試着してね」
「いや、胡桃がいちばんいいと思うやつで」
「え、いいの?」
「だってそれが俺にいちばん似合ってたんだろ?」
「うん!これがいちばんかっこよかった!」
目をキラキラに輝かせた胡桃。君がかっこいいって言ってくれるなら俺の中の選択肢は一択だ。
胡桃の選んだスーツを手にウエストの詰めや、丈の直しなど店員と購入の手続きを進めていく。
その間も胡桃は店内をぐるぐる見渡し商品を物色していた。女子高生にとってはスーツ屋なんて来る機会がないから珍しいものばかりなんだと思う。