オトナだから愛せない



「カード、御一括で宜しいですか?」

「はい」

「では、暗証番号を」

「皐月くん!」




必要事項を記入し、カードで決済を行なっていれば突然胡桃が駆け寄ってきた。




「どうした?もう終わるから」

「さっき選んだスーツに似合うネクタイ見つけた!」




と、持ってきたそれを俺の顔の下に当てる胡桃。ワイン色の光沢のあるネクタイ。




「やっぱり、皐月くんに似合う!」

「ネクタイはたくさんあるからいらないぞ」

「そうなんだ……似合うと思ったんだけどな……」




ネクタイは会社で、お祝い事のプレゼントや、お世話になった御礼にとよく貰う。俺の言葉に明らかに元気を失った胡桃は「じゃあ、戻してくるね」とワイン色のネクタイを持ったままネクタイコーナーに戻って行った。




「すみません、暗証番号ですよね」

「可愛らしい彼女さんですね」

「すみません、うるさくて」




お会計の途中だったことを思い出し、ビシッとネイビーの細身のスーツを着た男性店員にすみませんと会釈をしてカードの端末機に手を伸ばす。


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