15年目の小さな試練
 だるい。

 知らず知らずの内に呼吸が荒くなる。
 ご年輩の男の先生の穏やかな声がやけに遠くに聞こえて、ろくに耳に入ってこない。

「ね、牧村さん、大丈夫?」

 この時間、同じ授業だったのは田尻さん。いつもは手を振り合うくらいだけど、今日はカナがいなかったから隣に座った。

 その田尻さんが、私の顔を覗き込みながら小さな声で聞いてきた。

「……ん、…大丈夫」

 少しずつ、倦怠感が強くなる。机に突っ伏してしまいたい。

 本当はあんまり大丈夫じゃない。

 今なら、まだ一人で帰れるかな? もう教室を出た方がいい気がする。

「えっとさ、聞いといてなんだけど、多分、大丈夫じゃないよね? 医務室行った方がいいよ」

 田尻さんは少し怒ったような声でそう言うと、わたしの返事を待たずに、

「先生! すいません!」

 と大きな声を上げた。

 広い教室で自分たちに視線が集まるのを感じたけど、それを嫌だとか恥ずかしいと思う余裕もなかった。

 そんな自分の思考から、ようやく自分が思っているより調子が悪いのだろう事に気付く。

「どうしました?」

「牧村さん、体調悪いみたいなんで、医務室に連れて行っても良いですか?」

 田尻さんの手がわたしの背中に置かれた。

「ああ、ありがとう」

 先生が近付いてきて、わたしの顔を覗き込んだ。

「大丈夫? 気分悪い?」

「……少し。あの、ごめんなさい」

「そんな事は気にしなくて良いんですよ。こう言うのはお互い様だからね」

 優しい先生の声が身に染みる。

「牧村さん、歩ける?」

 小さく頷いたけど、田尻さんは疑わしいと思ったのかな?

「えっと……幸田くん! 付き合って!」

 と、少し離れた席にいた、去年のクラスメイトに声をかけた。

「了解!」

 ガタンと椅子を引く音がして、幸田くんが手早く荷物を片付けて、駆け付けてくれる。
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