15年目の小さな試練
「お待たせ」

「ありがとう」

 ハルちゃんの前に甘い香りを放つティーカップを置くと、

「あ、ストロベリーティー」

 と嬉しそうに頬を緩ませた。

「好きなんだってね」

「うん。この甘い匂いが好き。……晃太くんもストロベリーティー?」

「うん。せっかくだから、同じのにしてもらったよ」

 沙代さんからは違う葉っぱにしようかと言ってもらったけど、特にこだわりはないので同じものを入れてもらった。
 確かに、この甘い香りは女の子が好きそうだ。

 ハルちゃんは小声で、

「いただきます」

 と、スッとカップを持ち上げた。
 でも、すぐには口を付けず、嬉しそうに微笑を浮かべて香りを楽しんでいる。

 俺もカップを手に取り、まずは一口。
 漂う香りは甘いけど、味はほぼ普通の紅茶の気がする。

 ハルちゃんはしばらく香りを楽しんでから、ゆっくりとストロベリーティーを飲み、カップを置くと、スッと真顔になった。そしておもむろに、俺の方に視線を向けた。

「……突然、ごめんね」

「いや、むしろ嬉しいよ」

 ニコッと笑いかけると、ハルちゃんはホッとしたように笑顔を返してくれた。

「……あのね」

 そう言ったところで、ハルちゃんは何をどう言っていいのか分からなくなったのか、言葉を途切れさせた。

 叶太は思ったことがすぐ口にも顔にも出るタイプだし、過去に付き合った女の子たちも、とってもおしゃべりだった。それに比べると、ハルちゃんはとても口下手。いや、口下手と言うか口が重い。いわゆる、失言というものが、多分ほとんどないんじゃないかな。
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