15年目の小さな試練
 悩みなんてないと言われるかと思ったら、思いがけないハルちゃんの言葉。

 思わず目を見開いて見返すと、ハルちゃんは少し困ったような微笑を浮かべた。

「晃太くん、相談に乗ってくれる?」

「もちろん!」

 思いもかけない言葉に、頭で考える前に返事をしていた。

 あまりに早い返事にハルちゃんは驚いたように目を丸くして、その後すぐに嬉しそうに口元をほころばせた。

「ありがとう」

「どういたしまして。……というか、力になれると良いのだけど」

 そう答えながら、ピアノの片付けに入る。
 ハルちゃんが手伝おうとするのを制して、

「ここでいいのかな? それとも、ハルちゃんの部屋の方がいい?」

 沙代さんはキッチンで夕食の準備中だし、叶太は部活。おじさんもおばさんもまだ帰って来ていないから、どこで話しても支障はない。とは言え、あえて相談と言われたのだからハルちゃんが落ち着いて話せる場所が良いだろうと聞いてみると、一瞬悩んだ後、ハルちゃんは

「……じゃあ、リビングで」

 と小首を傾げて、そう言った。

「了解」

「あ、お茶、入れて来るね」

「いや、俺がもらってくるよ。ハルちゃんは座っておいで」

「え、でも……」

「いいから、いいから」

 そのまま、ハルちゃんの肩をトンとソファの方に軽く押すと、俺は足早に沙代さんの元へと向かった。


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