15年目の小さな試練
「俺は全然問題ないよ。普段から、そんな早く食べてる訳じゃないし。大体、沙代さんに話が終わるまで声をかけないように頼んだのは俺だから」

 笑ってそう言うと、ハルちゃんはホッとしたように表情をゆるめた。

「ううん。でも、わたしが気が付かなきゃいけなかったのに。沙代さんにお夕飯にしてくださいって頼んでくるね」

 いや、俺がと言う間もなく、ハルちゃんはそのままキッチンに向かった。
 今更止めるのも何だし、俺は二人分のティーカップを持って、ハルちゃんの後に続くことにした。



「とにかく、まずは会いに行って、それから考えたらどうかな?」

 食事を終えて、沙代さんが用意してくれた果物を食べながら、会話の続きに入る。

 俺にはデザートだったけど、ハルちゃんは食欲がないようで、途中から果物が主食のようになっていた。

「会いに行ってから、考えるの?」

「そう。課題を止めてもらうようにお願いするのが、一番の目的だよね?」

「……うん」

「あれ? 違うの?」

「……そうなんだけど」

「うーん。そこで引っかかってるのか」

 俺は顎に手を当て、しばし思案する。

「ハルちゃんは山野先生に何を伝えたいの?」

「え?」

「違うかな。じゃあ、何が聞きたいの?」

 その言葉に、ハルちゃんははっとしたように俺を見た。すぐに何か言ってくれるのかと思ったのだけど、ハルちゃんは何も言わなかった。
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