15年目の小さな試練
 とても慎重に言葉を選んでいるように見えるし、言葉が見つからなくて探しているようにも見えた。

 果物に手を伸ばしつつ、じっくりと待つ。あまり時間を取るのもなんだけど、慌てる必要はない。

「……なんで、だったのかな、って」

「なんで?」

「ん。それから……もし、わたしが途中でギブアップしてたら、それか、おかしな解答を出していたら、どうしたのかなって」

 ああ。なるほど。

 ハルちゃんが知りたいのは、山野先生の心の内側か。

 それから、またしばしの躊躇いの後、小さな声でつぶやいた。

「先生は、わたしに……どうなって欲しかったのかな?」

 ハルちゃんの目は少し潤んでいて、とても悲しそうな光が浮かんでいた。




 それから、間もなく叶太が帰ってきた。

「あれ? 兄貴、まだいたの?」

 ハルちゃんが叶太の袖を引く。

「わたしがお引き留めしたの」

 ハルちゃんの目には「失礼なことを言っちゃダメ」とでも言いたげな、とがめるような表情が浮かんでいた。

 でもハルちゃん、大丈夫。叶太に他意がないのは分かってるから。

「長々とごめんね。じゃあ、今日は帰るね」

「ううん。晃太くん、本当にありがとう」

「いや、嬉しかったよ。また連絡するね」

 そう言って、ハルちゃんの頭をなでると叶太が素早くハルちゃんを抱き込んで、オレから隠そうとした。

 思わず笑ってしまうと、ハルちゃんは居たたまれないといった様子で呆然としつつ、俺に小さく頭を下げた。
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