15年目の小さな試練
「それは、あなただけを特別扱いしろ、と言うことかしら?」

 先生が醸し出すのは威圧感。
 ハルちゃんが小さく息をのんだ。

 不意に、ああ、これか、と思う。
 以前、山野研究室に所属する友人が、

「サバサバしたイメージがあるだろうけど、山野先生、結構怖いぞ」

 と話すのを聞いたことがある。

「いや、怖いと言うより、ねちっこい、かな」

 友人はそうも言っていた。なるほどだ。

 これはハルちゃんにはキツいだろう。俺が話した方がいいかも。
 そう考えた瞬間、ハルちゃんが口を開いた。

「申し訳ありませんが、お願いします」

 そう言って、ハルちゃんはとても丁寧に頭を下げた。
 それに対して、先生はわざとらしくため息を吐く。

「私の授業の単位はいらないと言うことかしら?」

「いえ、まさか!」

「じゃあ、やるべきことをやりなさい」

 鼻で笑うように、先生はハルちゃんを一瞥した。

「特別扱いはしません。……話がそれだけなら、もういいかしら? 私もそう暇でもないのよ」

 何がおかしいのか、ハルちゃんを見てバカにするようにくすっと笑ってから、先生は俺に視線を向けた。

「広瀬くんも妹さんの言うことを真に受けてないで、大学の勉強は高校とは違うと教えてあげなさいよ」

「いえ、先生……」

 と俺が続けようとすると、ハルちゃんがそれを止めるように、俺の腕に手を置いた。

「先生、でしたら、他の子たちと同じ課題をください」
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