15年目の小さな試練
「……え? 牧村さん?」

 俺がドアを開けてハルちゃんを中に通すと、山野先生は珍しくポカンと無防備な顔を見せた。

「こんにちは。今日はお時間をいただき、ありがとうございます」

 ハルちゃんはとても丁寧に頭を下げた。

「え? 広瀬くんの、妹、さん?」

「はい」

 直前まで緊張した空気を身にまとっていたハルちゃんは、今は肝がすわったのかとても落ち着いた笑顔を見せた。

 妹違いではあるけど、わざわざ訂正する必要はないだろう。ハルちゃんが俺の義妹(いもうと)なのは確かだし。

「えっと……どうぞ」

 困惑気味の先生にソファを勧められて、俺はハルちゃんの背を押してソファへと導く。
 うちの教授の無骨な研究室とは違って、山野先生の研究室は中々洗練されている。小ぶりなソファは多分日本製の有名メーカーのもの。ここの家具は座り心地が良い。

「失礼します」

 二人で席に着く頃には落ち着きを取り戻したらしい先生は、

「で、今日は何かしら?」

 とにこりと笑った。
 ハルちゃんはゆっくりと一つ息を吸うと、まっすぐ先生を見て告げた。

「先生にいただいている課題のことで相談があります」

「課題? 個人課題かしら?」

 動じることもなく先生は微笑を浮かべたままに答えた。

「はい。あの課題を止めていただきたくて」

「止める?」

 眉根を潜めた山野先生から出てきたのは不機嫌そうな声。

 嫌な空気が流れる。
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