15年目の小さな試練
 そんなことを考えていると、久保田教授がニコッと笑って言った。

「さっきザッとですが、あなたの書いたレポートを見せてもらいました。深い考察と思いもかけない視点がとても興味深かった」

 ……え?

 何か、とても不思議な言葉を聞いた気がする。
 意味を取れずに呆然としている間に、久保田先生は言葉を続けた。

「これに懲りずに、これからも学びを楽しんでください。そして、いずれは、私のゼミに入ってくれたら嬉しいです」

 笑顔で告げられたその言葉が、じわじわとわたしの胸に響いていく。

 深い考察と思いもかけない視点。

 いずれは、私のゼミへ。

 言葉の断片が頭の中で何度もリフレインする。
 目頭がきゅうっと熱くなって、ダメだと思うのに涙がこみ上げる。

「牧村さん!?」

 久保田教授が驚いたように目を見開いて、わたしに手を伸ばす。

 あふれ出した涙は、頬を伝い、床へと落ちる。

「辛かったですよね。山野先生のやりようは教育者の片隅にも……」

 わたしを慰めようと久保田教授は言葉を紡ぐ。だけど……

「……違うんです。あの、ただ、嬉しくて」

 誤解を解くために慌てて口を挟んだ。

「久保田…先生の、言葉が……」

 ちゃんと話したいのに、ポロポロとあふれ続ける涙が邪魔をする。
 分かってくれる人がいたことに、それを言葉にしてもらえたことに、心が震える。
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