15年目の小さな試練
 話せば分かってくれる人もいるのだと思えたのは、本当にありがたかった。そうでなければ、今頃、どんな気持ちだっただろう? 晃太くんに連れ出されて、会話も終わらないままに研究室から出ていたのだったら……。

 もしかしたら、こんな風に対応してもらえたのはパパとカナが出したという寄付金のおかげかも知れないと思ったら、やっぱり心が晴れるにはほど遠かったけど……。

「牧村さん、あなたが頭を下げる必要はないんですよ」

 久保田教授はわたしの肩に手を置いた。

「本当に申し訳なかった。

 山野先生を許して欲しいとは言いません。あれは、あなたの誠意を踏みにじる行為だと思います。

 ただ、山野先生の行為を正当化する訳ではありませんが、あなたの実力を示す良い機会になったとも思います」

 久保田教授は真っ直ぐにわたしを見て、言った。

「レポートの内容を改めて確認させてもらってもいいですか?」

「え?」

 何を言われているか分からずに首を傾げると、久保田教授は隣のカナに視線を移した。

「えーっと、ハルの課題、見せちゃったんだ。ごめんね?」

「……わたしの課題? 山野先生の?」

「うん」

 カナがデイパックからバインダーを取り出すと、

「それそれ」

 と久保田教授が手を伸ばす。

「二、三日、借りてもいいかな?」

「こんなもので良ければ」

 何に使うのか分からないけど、断る理由もない。

 ああ、もしかして、山野先生が出した課題がどんなものか検証する必要があるのかも知れない。
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