15年目の小さな試練
 オレだって分かってた。

 本当はもっと早くに止めなきゃいけなかったんだ。
 家族の中で一番に過保護なのはオレだと思う。いつもだったら、ここまで待たずに止めていた。

 今回だって気をつけてはいた。
 気をつけないはずがない。

 ……だけど、今回は……やっぱり、間違えたんだよな。

 オレがうなだれているのを見て、明兄は

「まあ、済んだことはいいさ。大事には至らなかったし、今後、何があっても、卒業まではこぎ着けそうだしな」

 とニヤリと笑った。

「えーっと、それって……」

 どういう意味なんでしょうか、明兄?

「山野准教授のことを新聞沙汰にもしないし、週刊誌にも売らないし、ネットに書き込むこともしない。大学側もそりゃあ感謝するだろう?」

 ……明兄が黒い。

 思わず絶句すると、明兄はとっても綺麗な笑みを浮かべた。

 ……これ、何考えてるか知らなかったら、イケメンの極上の笑みって思うんだろうか?

 そんな事を思うくらいには、明兄は楽しそうに輝く笑顔を見せる。

「……でも、そこまでの事かな?」

 確かに、嫌がらせはされていたと思う。だけど、もしハルに持病がなければ、今でも普通に楽しく勉強を進めていたかも知れないくらいには、ハルは楽しそうだったし、出された課題を解くことには困っていなかった。

 そういう意味では、悪質ではあったけど、山野先生の目論見は外れていたとも言える。

「叩けば幾らでもホコリが出るって言っただろ?」

 あきれたようにそう言い、明兄は鞄の中から、A4サイズの封筒を取り出すと、ポンとオレの方に投げて寄越した。
< 325 / 341 >

この作品をシェア

pagetop