15年目の小さな試練
「……まあ、な。確かに楽しそうにしてたな」

 ハルはけっこうマメに明兄と連絡を取っている。
 兄貴からも色々聞いているだろうし、きっと明兄はオレが思ってる数倍は色んなことを知っているのだろう。

 って言うか、ハルの気持ちなんかは、もしかしたら、オレよりもよく知っているかも知れない。
 そう思うと、何だか悔しい。

 だけど、多分、ハルが気軽に相談できる相手がいるってのは、すごくいいことで……。だから、オレにはヤキモチを焼く権利もない。

 そうは思っても心から納得してる訳ではなくて……。

 なんて、思わず物思いにふけっているオレにはおかまいなしに、明兄は話しを続けた。

「だけどな、叶太。……間違えるなよ」

 真顔で明兄は、オレをじっと見つめた。そうして、オレが居住まいを正すのを待って、おもむろに口を開いた。

「陽菜がどうしたいかは確かに大切だ。……けどな、それよりも、陽菜の身体の方が大切だからな」

 明兄は静かに、そしてゆっくりと言い聞かせるようにそう言った。

 ハルがどうしたいかは大切。
 だけど、それよりも、ハルの身体の方が大切。

 ……だよな。

 ズシンと心が重くなる。

 月曜日の深夜、胸を押さえて苦しんでいたハルの姿が脳裏に浮かぶ。呼吸が上手くできなくて、呼びかけても、ハルは返事をすることすらできなかった。

 救急車を待つ間、オレにできるのは名前を呼び続けることと、背中をさするくらい。
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