15年目の小さな試練
「でも一体なんでまた、叶太、クッキーなんて作ったの?」

 そう、そこが聞きたい。

 ただの好奇心だけど。

「ん~、何でだろう?」

 だけど、ハルちゃんも不思議そうな顔をする。

「最初はゼリーだったんだけど、気が付いたらクッキーも作ってたの」

「なるほどね。ゼリーなら分かる。ハルちゃんの好物だもんね」

 そう言うと、ハルちゃんはふわっと嬉しそうに笑った。

 それから、気遣わしげに表情を曇らせると、

「カナ、元気?」

 と聞いてきた。

「ん? 熱は下がらないけど元気みたいだよ?」

 みたいって言葉でハルちゃんが不思議そうに俺を見た。

「ああ、あのね、ハルちゃんと会う俺がインフルエンザウィルスのキャリアにならないように、叶太とは会わないようにしてるの」

「え!?」

「あ、会わないようにしてるって言うかね、会ってもらえないって言うか」

 そう言って笑うと、ハルちゃんは何とも言えない苦い表情を浮かべた。

「でも電話では話してるし、ビデオ付けてるから顔も見てるよ。うん、元気だと思う。あいつ、あれだけ熱が続いて、よく体力持つよね」

 おでこのジェルシートがなきゃ、熱があるなんて思えないくらいだ。よくしゃべるし。まあ、しゃべるのはハルちゃんの事ばっかだけど。

 だけど、ハルちゃんは叶太の体力より、叶太の顔を見てるって方が気になったらしい。

「……そっか。晃太くんはカナの顔見て電話できるんだ」

「ああ、ハルちゃんはまだスマホじゃなかったっけ」

「うん」

「じゃあ、もしかして日曜日から叶太の顔を見てない?」

「そうなの」

 それからハルちゃんはポツンと「寂しいな」と呟いた。

 よかったな、叶太。ちゃんとハルちゃんも寂しがってくれてるぞ。

 思わず、失礼なことを考えてしまう。
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