少女漫画的事柄
「こ、言葉通りの意味だよ」
溜まらずそう口走っていた。まるでヤクザに脅されているようで、何か言わないと泣いてしまいそうだったから。
ますます眉間の皺が濃くなり、私は息を呑む。
「なんで俺がつまんなそうな人生歩んでる地味メガネ女に、つまんない人生呼ばわりされなきゃいけねェんだ?俺はなんでも持ってるぜ、顔は良いし人望は厚いし、モテるし、頭いいし。お前にないものぜーんぶもってる」
顔をぐいっと近づけて相変わらずのドスの響いた声でそう捲し立てる。そう、彼はなんでも持っている。私がもっていないものを。彼の言う通りだ。
__だけど
「...でも、それ。神楽坂君じゃないよね」
「...は?」
「本当の神楽坂くんは、口悪いし、人の事平気で馬鹿にするし。そ、そういうの隠して、皆にいい風に思ってもらうために猫被って、すっごく疲れそうだし。つまんなさそう。ていうか…っ」
だんっと耳音で大きな音が聞こえてびくりとする。言葉を止め、伏せていた顔を恐る恐る上げた。
私と壁を挟み込むように神楽坂玲人は立って、壁を殴りつけたのだとようやく察する。これは、巷で噂の壁ドンという奴だろうか。
人生初の壁ドンが性悪猫被り王子というのは、いかにも少女漫画的。