少女漫画的事柄
「随分好き勝手言ってくれるじゃねぇか、ガリ勉眼鏡もどきが。賢い生き方、って言うんだよ、こういうのは」
するり、と彼の掌が私の頬を撫であげた。ぞくりと背筋が凍る。
その手はそのまま私の顎を掴み軽く持ち上げた。こちらを睨む瞳と目が合う。怖いけど、綺麗な瞳だ。
「どうせ、彼氏もいなくて勉強ばっかのつまんねー高校生活送ってんだろ?...っは、つまんねーつまんねー」
「っ神楽坂くんに言われる筋合いは__」
「だから、可哀想なお前にこの俺が良いコトしてやるよ」
「___っ!!」
焦点が合わなくなる距離まで神楽坂玲人の顔が近づいた。一瞬の吐息の後、唇に生暖かく柔らかいものが触れる。
ちゅ、とリップ音がリアルに響く。あ、そうか、これはリアルなんだ。
瞬きするのも忘れて、離れていく奴の顔をただただ見つめる。
「ふっ、感謝しろよ。この俺がファーストキスだなんて__」
「__もい」
「はは、感激すぎて言葉も出ないか?ま、当たり前だろ。お前みたいな一生キスさえ出来なさそうな女に、この俺がキスしてやったんだからな。キスしてやったんだから、俺の本性の事言うんじゃねぇぞ?あ、もう一回してほしいとか?は、しょうがね___」
「っキモイっつってんの!!!」
ばっしーん、と音が響く。私が奴の頬を叩いた音だ。じんじんと私の掌も相当痛んだが、赤く染まる奴の頬を見てざまあみろと思う。
心底意味が分からない、といった様子の奴が呆然として叩かれた頬を抑えていた。
「...な、にすんだてめぇ」
「何すんだはこっちのセリフよ!!キモイ、本当に無理!生理的に無理!」
そう言いながら胸を強く押すと簡単に彼の体が動いた。机上にある勉強道具を乱雑に鞄に詰め込み猛ダッシュで教室を駆け出した。
___何なんだあの男は!!