異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「雪、そろそろお米を炊いたほうがいいんじゃない?」
「あ……そうだね、教えてくれてありがとう。私、まだまだお母さんみたいに手際よく料理ができてないんだなあ」
お母さんが料理するときは、なにかを揚げているうちに二品目の下準備にとりかかったり、片付けも同時に済ませていたり、無駄な動きが一切ない。
それはきっと、できるだけ早くお腹を空かせたお客さんに料理を食べてほしいからなんだろう。
見習わなくちゃ……。
お母さんのことを思い出したら、少しだけ鼻の奥がつんとした。
瞳まで潤み始めて、私はそれを瞬きでごまかすと蓋に重石を載せて、お米の入った鍋を強火にかけた。
お米を炊き始めると、私はさっき切った玉ねぎを汁を作っていた鍋に入れて中火にかける。
「玉ねぎに火が入ってきたら、カットしたトマトも投入して中火でさらに煮詰めて……。エドガー、カツを引き上げてもらってもいい?」
「わかった。出来上がったカツはどうする?」
「油をしっかり切りたいから、一旦お皿にあげちゃおう」
私は油を切るための網がないので、小麦粉が入っていた紙袋を破って広げるとお皿の上に敷いた。
エドガーにはそこに揚げたカツを並べてもらい、油が切れてきたものからカットして煮汁の中に入れる。
やがてご飯が炊けると、私は先ほどオリヴィエのお店で調達したアルミに似た銀色のお弁当箱を取り出した。
そこにご飯をよそって、私は鍋を傾ける。
汁によく絡んだカリカリのカツが、つるりと柔らかなご飯のベッドの上に沈んだ。
その瞬間、ふわっと湯気があがり、騎士の皆さんから小さな歓声があがった。
そのときの皆の笑顔は輝いていて、私もつられるようにして口角を上げると最後にネギの代わりのジャーミンをふりかける。