異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「私たち、ただお弁当を作っただけなんだけどね。この領地を守れたのだって、バルドさんや騎士団の皆さんが戦ったからなのに」
「バルドさんの話だと、雪のお弁当は〝食べたら大事な戦に絶対に勝てる〟って王国中で噂になってるらしいよ。剣は持てなくても、雪は雪にできることで誰かの力になってる」
隣に腰かけていたエドガーは私の顔を覗き込むのと同時にずり下がった眼鏡を人差し指で直しながら、眉尻を下げつつ微笑む。
「エドガーって……その笑い方、癖?」
なんの脈絡もない返答だとは思うのだが、どうしてもエドガーのぎこちなさが抜けない笑みが気にかかった。
当の本人は指摘されたことがなかったのか、目を見張ってから「参ったな」と苦い笑みをこぼして頬を指先で掻く。
「そんなこと言われたの、初めてだ。雪は人のことをよく見てるね」
どこか含んだ言い方だった。私が言葉の意味を推し量っていると、話を聞いていたオリヴィエが訝しげに眉を寄せる。
「なんです? 辛気臭い顔をして。城に行きたくないなら、エドガーは家に帰ればよかったんじゃないですか?」
オリヴィエの容赦ない毒にも反論せず、エドガーは黙って笑みを浮かべたままだ。
それを見たロキは小さく飛び跳ねて、軽くオリヴィエの頭を叩く。