異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「あの世界に帰っても、『おかえり』って言ってくれる人はもういないから……。それって、帰っても意味ない気がして……」
お母さんが亡くなってから、世界は途端に色褪せて見えた。
一緒にランチワゴンで働くっていう夢も灰のように消えてなくなって、ぼんやりとした日々を過ごすことが多かったと思う。
「でも……この世界に来てから久しぶりに料理を作って、それも休む暇もなく動いたのはいつぶりだろう」
お葬式までの数日間は自分のためだけに料理をする気にはならなくて、買ってきたもので済ませていた。
ときどき、食べることすら忘れることもあった。
「こうやって、景色を見て綺麗だと思うこともなかったな」
きっとあのまま家にこもっていたら、お母さんがいなくなったという事実から目を逸らすように、悲しいという感情を閉じ込めるように私の心はなにも映さなくなっていただろう。
自分のお弁当をおいしいって言ってもらえる喜び、働ける充実感、綺麗なものをきれいだと思える心。
その全てがこの異世界に来て、少しずつ戻っているのを感じていた。
答えらしい答えを出せないでいた私の頭に、エドガーは手を載せてくる。