異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「帰りたくないのか、そうじゃないのか、わからないならとことん悩んだらいい」
「え?」
「納得がいくまで悩んで、答えが出るまでは衝動的にしたいこと、少しでも心動かされたことをすればいいんだ。焦って誰かに決められた道を歩むより、ずっといい」
エドガーの言葉がすとんと胸に落ちてくる。
今はただ、もう少しだけ。
そもそも帰れる保証はないのだけれど、もしこの世界にいられるのなら、ここで心を休めてもいいのかもしれない。
そう思ったら幾分か心が軽くなった私は「ありがとう」と頭を撫でてくれたエドガーの手を握って、にっこりと笑う。
絶望しか見えなかった未来にほんのわずかだけれど、光が差したような気がした。
辺りが夕日の橙色に染まる頃、私たちは王都の丘の上にあるパンターニュ城にやってきた。
敷地内には鐘のついた石造りの塔や教会があり、庭もピンク色のダマスクローズで埋め尽くされている。
大理石が敷き詰められた廊下を歩き、バルドさんに連れられて広間に通されると、緊張で口の中がからからになりながら王様の来訪を待つ。
やがて、「王様のご尊来!」という声とともに広間の大扉が開かれ、王冠を被った十一歳くらいの金髪の少年が入ってくる。
身に着けた紺の王族衣装とは対照的な深紅のマントをバサッと手で払い、彼は王座の前まで歩いてくると、そこへ当然のように腰をおろす。