異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「バルドさん、どうしたんですか!」
「んんっ……この声は……雪、か……」
気怠げに上半身を起こすバルドさんは、顔が赤く目が据わっている。
そこへ店員さんがやってきて、テーブルに木製のジョッキを置いたのだが、バルドさんの顔を見た瞬間に小さく「ひいっ」と悲鳴をあげてそそくさと下がる。
不思議に思って店員さんの背中を見つめていると、他の騎士の皆さんが吹きだした。
「また怖がられてるよ。団長は目つきが悪い上に、傷痕が余計におっかねえからな。軍服と鎧を着てなけりゃ、ならず者と間違われる」
私の疑問に騎士のひとりが答えると、バルドさんがジョッキを引き寄せながらため息をついた。
「町の子供には泣かれたこともある。俺の見てくれは魔物かなにかに見えるのだろうな。目が合っただけで悲鳴をあげられ、道を歩くだけで誰もが恐怖に慄いた顔で避けていく始末だ」
やけ酒のようにジョッキを勢いよく傾けるバルドさんに、私は助けを求めるように騎士の皆さんを見たのだが、誰も止める気はないらしい。
むしろ「もっと吞めー!」と煽り、大口を開けて笑っている。
もはや彼らは頼れないと悟った私はバルドさんの隣に座って、その手からジョッキを奪い取った。
バルドさんは不服そうな目をしていたけれど、気づかないふりをして話しかける。