ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「本当に大丈夫か?」 

素に戻り、気が抜かれたみたいに惚けていると、肩越しにあたしを窺っていたナオヤが体の向きを変えた。

彼が見ている。笑顔を拵えたつもりだったが失敗し、涙腺の栓がぽろっと外れてしまった。

手の甲に涙が落ちてきて、あたしはそれを焦って拭う。

「すみません」

あたしの泣き顔に、ナオヤは何も言わなかった。

言えなかったのかもしれない。彼の表情には逡巡が表面化していた。

途中まで挙手したそれを、彼はすごすごと下ろし、握ったり、開いたりしている。

もしあたしにぜんまいがあったなら、一巻きぐらいしてやって、元気出せよとか、もう大丈夫だとか口に出せるだろう。

いや、巻いてやるだけでも充分慰めになるはずだ。でもあたし達の間には、一方的に巻いてあげる絆しかない。こればかりは致し方ない。

この世界にはキスも、抱擁すら存在しないのだから。

はっ、もしや。あたしは彼に抱き締めてもらいたがっているのだろうか。

はあ、何たることだ。

「……大丈夫です」
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