ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
あたしは創手の端麗な横顔を見ていた。

あたしには目もくれず、少しまどろんでいるような眼差しをしていた。

あたしは創手が何か口にするのを黙って静観した。

音もなく創手がブランコから立ち上がる。

彼は太い木の幹を、優美な足取りでつつがなく一周し、二周目に入ろうかというところで、漸くこちらに目を向けた。

深い海のような色の瞳で、無味にあたしを見つめ、素っ気なく目線を離す。

「意外と早く来たね」

あたしが来ることを先見していたようだ。

「また赤い物を食べたんだって?」

「すみません」

「別に。それを聞いて少し可笑しかったくらいだ。実に君らしい」

言葉とは裏腹に、面白いとは微塵も思っていない面持ちだった。
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