ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
日除けの部分を下ろすと、鍵が音を立てて滑り落ちてきた。
それを額の前でキャッチし、泥人間はエンジンを始動させる。
これ以上首を突っ込まない方がいいのではないか。本能があたしの肩を叩いて気を引こうとしていた。
トラックは無灯火で、森の中を驀進していた。
舗装などされていない道なき道なので、車内の安定感は絶無だ。内臓が揺さぶられ、すこぶる気分が悪い。
こんな真っ暗な道を、どうして普通に運転出来るのか腑に落ちなかった。
交通事故はもうごめんだとも思った。
それより何より、泥人間が運転している事実に驚いていた。化け物なのに運転免許試験に通ったのか。
「名前は?」
細いシートベルトに強引に隠れる。当然、見えてる表面積の方が圧倒的に多い。
「く、黒谷麻奈です」
こちらが素直に称したにも関わらず、泥人間は名乗らなかった。
バックミラーで背後を確認し、「ふう」とか言いながら彼はブレーキを踏んだ。