ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

群がる野次馬をボディーガード風の男達が抑えているのを尻目に、後部座席から優雅な足取りで降り立つ人物があった。

ゴージャスな毛皮を纏い、大きなサングラスを掛けている。顎からデコルテにかけては白磁のような白さで、唇はショッキングなピンクだった。

ヒールの高いエナメルブーツを履いている。

遠目に見て、匂い立つような美女かと思いきや、よくよく見ると男の人だった。

その奇をてらった風貌は夜景の中でも一段と異彩を放っており、人口着色料を髣髴とさせた。

「ディラン様! こっち向いてぇ!」

彼は自分の一番美しく見える角度を熟知したように顎を引き、妖艶な笑みを振り撒いている。

連鎖反応のように歓声が上がる。

彼と同じような格好をしている若い女の子のファンもちらほら。

彼は通常鉛色のはずのぜんまいを金でメッキし、クリスタルのビーズでデコレーションしていた。

こっちの世界の大スターに違いない。

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