その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「あのね、礼ちゃん。次の次の土曜日、礼ちゃんはお仕事かな?」
「その日はお仕事はお休みだよ」
「じゃぁ、礼ちゃんも運動会見に来てくれる?」
期待のこもったキラキラした目で見上げる乃々香は、妹によく似ていてとても可愛い。
「うん。見に行くね」
笑顔で頷くと、乃々香が嬉しそうに破顔する。
その顔を見ていたら、私まで嬉しい気持ちになった。
「じゃぁ、公園に練習しに行こう!」
「あ、乃々香待って!」
張り切って、公園のほうに向かって中庭を突っ切っていこうとする乃々香を慌てて声をかける。
乃々香を追いかけて走ろうとしたら、私のそばで立ち上がった広沢くんがクスクスと可笑しそうに笑った。
「碓氷さんて、こんなふうに誰かに優しく笑いかけたり、心配したりできるんですね」
「どういう意味?」
「だって碓氷さん、会社でも俺の前でも無表情だったり眉間にシワ寄せてることが多いから」
「悪かったわね」
自覚はあったけど、身内の前と他とではそうも違うのか。