その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―
「ごめんなさい。特に意味はないの。ただ、広沢くんもスイーツが食べたいのかな、と思っただけで」
今度は、きちんと考えてから言葉を返す。
すると、広沢くんが手にしていたティラミスのパッケージを眺めるように回しながらつぶやいた。
「碓氷さん、あれからずっと普通ですよね」
「あれから?」
首を傾げながら聞き返すと、広沢くんがティラミスから視線をあげて、私のことをちょっと睨むように見てきた。
「俺が告白紛いなことを口にしたのに、全く気にしてないでしょ。職場で話すときはもちろん、こうやってふたりで話してるときだって、碓氷さんは一ミリも動揺してない」
告白……
声には出さずに口の中でその言葉を反芻しながら、ひと月ほど前のできごとを思い出す。
上司や元恋人に陰で悪く言われていた私を、広沢くんは抱きしめてくれた。
彼の言葉も腕の温もりも、確かにとても嬉しくて。
広沢くんに見られないようにこっそり涙を拭いた私は、ちゃんと動揺していた。
だけど、あのときのことを真っ直ぐ素直に受け止められるほど、私はもう若くない。