極上御曹司のヘタレな盲愛
妊娠中の心得と、双子の育児がどれだけ大変かをずっと語っている母と…。
「桃に全部先を越されちゃったわ…」と、何故か悔しそうに言う花蓮に手伝ってもらって、とりあえずの荷造りをした。

「後の荷物はまた、楽々パックで送るわ」
と母が大河に言う。


荷物を詰めた大きなスーツケースを光輝の車にのせて、大河の家まで送ってもらった。


大河の家は、会社から3つ目の駅前にあるタワーマンションだった。

記憶を失くした私を、大河は家に連れてくる事はなかった。
いつも会うのは似鳥の家か、外でデートだったから。

「ここで私、大河と住んでいたの…?」

マンションの車寄せで光輝にお礼を言って降ろしてもらい、大河とエントランスをくぐる。

「水島様…。似鳥様…。お帰りなさいませ」

ニッコリと笑って美人のコンシェルジュさんが言う。

大河は私の肩を抱き寄せると…。

「ああ、この人、もう婚約者じゃないんだ。
俺たち結婚したから…よろしく」

「そうでしたか!おめでとうございます!
では、改めまして…。水島様…、奥様…おかえりなさいませ。
他の者にも申し伝えておきますのでご安心下さい。何かご用がございましたら、ご遠慮なくお申し付け下さいね」

コンシェルジュさんは、再びニッコリと微笑んだ。

奥様…。
そう初めて呼ばれて、照れ臭いのと同時に…今、こうして大河の隣に居られる事が本当に嬉しくて、胸がいっぱいになって大河を見上げた。

カウンターから離れ、エレベーターを待っている時…。

「本当に私…ここに住んでいたのね…」

今のコンシェルジュさんは、明らかに私の事を知っているようだった。

「そう言ったろ」

「どうして今までここに連れてきてくれなかったの?何か思い出せたかもしれないのに…」

エレベーターに乗り込みながらそう問いかける私に、大河は困ったような顔をして暫く言い淀んでいたが…。

「俺の家なんかで桃と二人っきりになったら…。キスだけじゃ我慢できなくなるだろう…。
…色々と…思い出もあるし…。
お前が俺の事をまた好きだと言ってくれるまで、そういう事を絶対にしないって心に誓っていたんだ。
その…。入籍した日の朝も…お前を立てないまでにして…。
お前に、鬼畜とか人でなしとか言われたし…」

「…!鬼畜とか人でなしって…立てないまでにしたって…いったい…」

色々想像してしまって、耳まで真っ赤になった。

「そんなに凄い事を想像されても困るけど…。
お前と気持ちが通じてやっと結ばれて…。
すごく嬉しいやら…メチャ気持ちいいやら…とにかく浮かれて…えーっと…」

「もうっ!指折り数えなくてもいいから!」

天井を見ながら1回、2回と指を折って数えだした大河の手を、顔を赤くし両手でギュッと押さえたところで、チンと軽やかな音がして…最上階にエレベーターが到着した。


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