極上御曹司のヘタレな盲愛
「大河っ…私…」

意気込んでベッドルームからリビングにつながるドアを開けると…。

「う…わぁ……どうしたの?これ…」

そこにはリビングを埋め尽くす…花、花、花!

「桃が眠っているうちに届けてもらったんだ…。明日、チェックアウトしたら、全部家の方に送ってくれるってさ。
フッ…芋虫はついていないはずだけど…」

大河がそばに来て、背を屈め私の頬に手を当てて、顔を覗き込みながら言った。

「ずいぶん顔色が良くなったな…」
「うん…お花…こんなにたくさん飾ってくれたの?」

胸が一杯になって思わず大河に抱きつく。
仕事って、もしかして私のためにお花を飾ってくれる事だったの?

「あの時のリベンジだ…」

大河は私の頭を撫でながら、顳顬に優しく口づけ呟いた。

あの時のコスモス…。
あんなに嫌だった思い出が、今では懐かしくクスリと笑える思い出に変わっている。


「ちょうどルームサービスも届いたし、乾杯するか。お前はジュースだけど」
「うん!」

悪阻が治って、最近ようやく食べ物を美味しいと思えるようになってきた。
沢山の花々に囲まれ、ワインとジュースで乾杯し、ルームサービスで運ばれた美味しいお料理を食べながら、大河と今日の結婚式の事を話したりする。

私…大河に大事にされてる…。
でも…あんなに今日こそ抱いてって言おうと意気込んでいたのに、すっかり気勢が削がれてしまった…。

食事を終えると大河は
「さてと…俺も風呂入って来るわ」
と言い、バスルームに行ってしまった。

「はぁ……ぁ」

一人残された私の口から深い溜息が漏れる。

無理だ…。やっぱ無理…。
妊婦とはいえ、恋愛経験値の低い私が…自分から抱いて欲しいなんて、やっぱり言えるわけない!

寝室の方のバスルームで歯磨きを終えると、なんだか悲しくなってしまった。

早く…全部記憶が戻ってくれればいいのに!
私…その時…どんな気持ちで大河と結ばれたのだろうか…。
どんな気持ちで婚姻届を出しに行った?
何も思い出せない…。
記憶を失う前の私と、今の私の大河への気持ちは…同じなの…?
わからない…。

馬鹿馬鹿しいとは思うけれど…記憶を失う前の自分がなんだか羨ましい…。
だって…私はまだ…大河と繋がっていないんだもん…。

鏡の前で項垂れ、両手で顔を覆って立ち尽くす…。

< 176 / 179 >

この作品をシェア

pagetop