極上御曹司のヘタレな盲愛
「…も…も…桃…」
「……ん…っ」

は…!少し横になるつもりが眠ってしまったらしい。
慌てて起き上がった私を見て、大河がプッと吹き出した。

「お前…髪、凄い事になってるぞ」


アップにして貰っていた髪が、所々解けたり潰れたり、ぐちゃぐちゃになってる!

どんなに疲れていても、ちゃんとお風呂に入ってから横になれば良かった!
メイクもきっとぐちゃぐちゃになっているんだろう。
寝る前に泣いちゃったし…。
ああ、こんな顔…大河に見られたくない!

「疲れは取れたのか?」
と訊く大河に
「うん」
と顔を見られないように俯いて短く返事をし、ベッドから降りた。

「お風呂に入ってくる。髪をなんとかしなくっちゃ…」
と、慌ててベッドルーム横のバスルームへ向かう。

大河は何か言いたげだったが
「風呂から出たら、あっちに来いよ」
とリビングの方を親指で指差し、寝室を出て行った。

…一緒に入ろうって…最近は言わないんだ…。
やっぱり寂しい…。

湯船にお湯を張っている間に、お化粧を落としてぐちゃぐちゃになった髪を解きほぐしながら洗う。

湯船に浸かると残っていた疲れがとれた。

よし!決めた!寂しいって、大河にちゃんと言おう。寂しい理由もちゃんと話そう。

妊娠がわかって、お腹の子が大河の子じゃないって思い込んだ私は、大河に何も言わずに別れを選んだ。

結局、大河の子だとわかって収まる所に収まったけれど、あの時ウサコ先生が大河に何も言ってくれなかったら…今頃私は一人で暮らして…子供を産む準備を不安の中でして…。
毎日…大河のことを想って泣き暮らしていたかもしれない。

私はもうすぐ母親になるんだから…。

他人の噂に流されて落ち込んで、自分に自信が持てなくて大事な人を避けたり。
大事な人に大事な事が言えずにウジウジして大事なものを手放そうとしたり。
そんな自分ではダメだよね…。

寂しいって…。

いつまでも…心が処女のままじゃ寂しいって…。
抱いて欲しいって…大河と体が繋がらないまま出産するのは、心のどこかが欠けているようで…不安でしようがないって…。
言ってもいいかな…。

大河なら…だってお前、妊娠中だろって引いたりしないよね?

私はバスローブを羽織り、髪を乾かし…意を決してバスルームを出た。


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