極上御曹司のヘタレな盲愛
「そういえば大河…。お前、桃の事を『双子の残念な方』なんて言った事あったっけ?」

「無い!ある訳ないだろう!そんな風に思った事もない…。俺は子供の頃からずっと桃の事が好きだったんだ。そんなバカな事、言うはずがない!」

大河が首を横に振り、最後には私の目を見つめて言うので、周りの女性社員がザワザワと騒ぎだした。

「だよな…。お前とは30年近い付き合いで、桃の気を引きたくて色々とアホなちょっかいをかけてるのは見た事があるけど…。
桃の事を『双子の残念な方』だと言ってるのは、俺は聞いた事ないな…」

「そんな…!」

片山さんが絶句する。

大河から、そんな事は言ったことないとは聞いていたけれど…。
光輝の口から改めて聞くと、大河に申し訳ないって強く思った。

他人の言葉を信じて…ずっと避けていて…ごめんなさい。

「君達の上司は悠太だから、後のことはアイツに任せるとして…」

光輝は、未だ大河越しに私の事を、燃えるような瞳で睨んでいる斎藤紫織の方に向かって言った。

「さてと…。最後は君だね…」

大河が心配そうにハンカチを外し、私の腕の傷の血が止まっている事を確認すると
「大丈夫か?」
と優しく耳元で訊いてきた。

大河の目を見つめコクリと頷くと、肩をギュッと引き寄せられ、顳顬に軽くキスをされた。

もう!みんなの前なのに!

案の定、キャーともイヤーとも聞こえる女性社員達の悲鳴が上がる。

離れようとするけど、大河は「いいから」と肩に回した手を離してはくれない。

そんな私達を、斎藤さんは唇を噛んで憎々しげに凄い形相で睨み続けていた…。


「斎藤紫織さん…。君には確か10年以上前にも言わなかったかな…?
覚えてない?俺と、大河と、悠太の3人で…。学生の頃…中等部の下駄箱の所で…君が、君のお仲間達と、桃の靴を隠したり持ち物を捨てたり、色々と嫌がらせをしている所の証拠の映像を突きつけて…。
あの時、俺達言ったよね。これは犯罪だって…。以後、二度と桃を傷つけるような事をしたら絶対に許さないって、俺達は君に確かに言ったよね。
君はちっとも反省なんかせずに…『桃に対する嫌がらせをやめて欲しいなら、私と付き合って下さい』なんて平気な顔で馬鹿な事を言って…大河を激怒させていたけどね。
覚えてない?
その証拠の数々…今でも家にあるよ。なんなら今度見せようか?」

斎藤さんが初めて私から目を逸らし、光輝を見た。

「嘘よ…。私達が大学を卒業するまで保管するって…言ってたじゃない…」

「嘘じゃない。ちゃんとあるよ。
だって君がニタドリに入社してきたからね…。
就職してからも君はずっと桃に嫌がらせをしてたでしょ…。
大河が桃の事を『双子の残念な方』って最初に言い出したって大嘘を、学校で広めたのは君だよね。
そして会社に入ってからも…また桃の事を『社長の娘の残念な方』だと君が広めた…。
大河が言ってるからみんなも言っていいってね。
同期の女の子がクビになった理由を、桃や庶務係の人達が言わないのをいいことに…。
桃が気に入らない同期を社長に頼んで辞めさせたっていうデマを、会社中に言いふらしたのも君だね、斎藤紫織さん…」


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