心、理、初
怒ってる?辺寺、冷たくなったお父さん
○映画館のロビー(昼)
心「ねぇ、映画に出てきたパン屋の男の人、辺寺に似てなかった?」
初「私もそれ思った」
心「だよね。似てたよね。辺寺自身もそう思った?」
心が右隣を歩いていた理也に聞くけど、理也は何も答えない。
心「辺寺? 聞いてんの?」
理也「俺、先に帰るわ……」
理也はそう言うと、突然一人で歩いていく。
心「えっ? 何で? 昼食は?」
心が理也の背中に向かって叫ぶけど、理也は振り返る事なく、映画館から出て行った。
心(食べ物を買わせなかった事を怒ってるのかな? でも、そのおかげで初くんと手を繋げたんだよ? 許してくれても良いじゃん……)
心「初くん。私達も帰る?」
心(辺寺の事心配だよね……)
初「ううん。帰らないよ」
心「良い…の? 辺寺は…」
初「理也は、今一人で居たいみたいだから。一人にさせよう」
心「そう…なの?」
心(大丈夫…なの?)
心は理也が出て行った方を見る。
初「心ちゃん。ありがとう」
心が隣に居る初を見る。
初「理也と外で初めて手を繋げて、すごく嬉しいよ。本当にありがとう」
心「うん!!」
心が笑顔になる。
心(私もすごく嬉しいよ)

○カフェ心貴呂の店内(夜)
心「ただいま」
初「帰りました」
心の父「おかえり」
心と初が帰ってくると、笑顔の心の父がキッチンに居た。
心の父「映画は面白かった?」
心「面白かったよ! あのね。パン屋の男の人が映画に出てくるんだけど、その人が辺寺に似てるんだ」
心の父「へぇ…」
心の父から笑顔が消える。
心(しまった……。私が辺寺にキスした後から、辺寺に冷たくなってたんだった……)

○(回想)二階のリビング(朝)
心「おはよう」
心の父「おはよう」
心の父が心の顔を見て、笑顔で言う。
初「おはようございます」
心「おはよう」
心の父が初の顔を見て、笑顔で言う。
理也「おはようございます」
心の父「…おはよう……」
心の父は笑顔を見せず、理也の顔も見ずに言う。
(回想終了)

○カフェ心貴呂の店内(夜)
心(どうしよう……)
初「店長。新しいメニューはどうですか?」
心の父「そうだな……。七品は考えたよ」
心の父が初に笑顔で答える。
心(笑顔が戻った……)
初「七品も一人で考えたんですか? すごいですね!」
心の父「私はすごくないよ。初くんが書いてくれたこのリストのおかげで、考えやすかっただけだよ」
心の父がカウンターの上に置いていた一枚の白い紙を手に取る。
心「そのリスト、辺寺も書いたよ…」
心(あっ………)
心の父からまた笑顔が消える。
初「店長……。手伝いましょうか?」
心の父「試食をやってもらおうかな。出来たら呼ぶから、部屋に行ってて良いよ」
心の父が笑顔で初に言う。
初「良いん…ですか?」
心の父「初くんは良いんだよ。心は手伝ってもらうけどね」
心の父は心にも笑顔を見せるが、怖い。
心「うん……。着替えたら…すぐ手伝います……」

○二階の心の部屋(夜)
心は自分の部屋に入るなり、ドア近くにあるベットに倒れる。
心「辺寺の名前は言ったらダメなのに……」
心(分かってるのに……)
コン、コンと二回ドアをノックする音が聞こえて、心は体を起こすと、立ち上がり、ドアを開ける。
心「辺寺……えっ?」
理也が勝手に心の部屋に入って、心が驚いていると、理也が心の手を掴んだままのドアノブを掴み、ドアを閉める。
心「辺…寺?」
理也が心と向き合い、見つめ合う。
心「用がないなら…出てくれないかな? 着替えないと」
理也「キスをさせて欲しい」
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