心、理、初
切ない心
○二階の心の部屋(夜)
心「ダメ!
出て行って、着替えるから」
理也はその場から動かず、心を見つめている。
心「私の下着姿を見たいの?」
理也はその問いに答えず、心を見つめている。
心「分かった……」
心は上着の裾を両手で掴むと、上に上げていく。
理也はそれに気づくと、心から目線を逸らして、ドアを開けて、心の部屋から出ると、ドアを閉めて行った。
心は上着を上げていた両手を下ろすと、ベットに倒れる。
心「私の下着姿は見たくないんだ……」
心(あの女の胸元は見てたくせに……)
心「キスさせるわけないじゃん……」
心(バカ辺寺……)

○一週間後の二階のリビング(朝)
朝食を食べ終わり、心、心の父、理也、初が話している。
心の父「カレーの販売が終了して…お客様も減って…どうなる事かと思ったけど……」
心「お客様が増えたね。前よりも」
理也「良かったです……」
初「新しい週替わりメニューのおかげですね」
心「初くんと辺寺のおかげだよ?」
心の父「そうだね。二人が居なかったら、メニューは増えなかったからね」
初「ずっと気になってたんですけど、どうして新しいメニューは、私達の好きな食べ物を二つだったんですか?」
心の父「それは……」
心「私とお父さんと一緒に住んでたパパが言ってたの」

○(回想)十五年前に住んでいた家(昼)
心のパパ「自分の好きな食べ物を好きになってくれたら、嬉しいよね」
心の父「そうだね」
心「うん!」
心のパパ「よし! カフェを開く時は、それぞれの好きな食べ物をメニューにしよう」
(回想終了)

心「だから、三人のそれぞれ好きな食べ物をメニューにしたの。それが二つずつになったのは、パパの好きな食べ物を二つしか知らなくて。それで二人にも好きな食べ物を二つずつって言ったんだ」
心は笑顔で答える。
初「そうだったんだ……」
心「カフェ心貴呂の心貴呂は私とパパとお父さんの名前一文字をとってつけたの。パパが考えたんだ。良い名前でしょ?」
心の父「心ちゃん」
心の隣に座っていた心の父が心の左肩に右手を置く。
心「……片付けるね」
心はテーブルの上に置かれている食べた後の皿やコップなどを見て言う。
心の父「今日は月曜日。心の当番だね」
心の父は心の左肩に置いた右手をどける。
心の父「私達は部屋に戻ろうか」
初「はい」
心の父と初が立つ。
理也は片付けている心を見ている。
心の父「辺寺くん。戻ろう」
理也「…はい」
理也も立つと、三人はリビングから出て行った。

○カフェ心貴呂のキッチン(朝)
心は流し台にある皿やコップを入れたボウルに蛇口をひねって、水を入れる。
それをボーッと眺めている心。
心の父「心ちゃん。誕生日おめでとう」
心の父が笑顔で心の後ろに立っている。
心「ありがとう。お父さん」
心は振り返ると、心の父に笑顔を見せる。
理也は心が心配で階段を下りた所で、その会話を聞く。
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