ことほぎのきみへ

「前提が間違ってると思うよ」


ごちそうさまと
また手を合わせ、立ち上がると
あの人は持ってきた食器をシンクに置いた



「さっきも言ったけど
『誰も悪くない』」


そのままスポンジを手にとってお皿を洗いながら
あの人は言葉を続ける


「きみは、自分が母親を殺したって
自分が悪いって思ってるみたいだけど
それは違う」


「……でも」


「いつ、誰がどうなるかなんて誰にも分からない
『たまたま』そうなってしまった
……『偶然』なんて言葉で片付けるのが嫌な人も
そう出来ない人もいるだろうけど、実際そうなんだ」



「誰かや何かのせいにしてどうなるの?
それで、何かが変わる?
失ったものや、無くしたものが返ってくる?
……そうじゃないでしょ」



蛇口の水を止めて
近くのタオルで濡れた手を拭った後

あの人は私に視線を向けた



「悲しいなら悲しいでいいのに
辛いなら辛いでいいのに」



「失って
すごく辛い
悲しい、苦しい
…それじゃだめなの?」


「どうして、わざわざ
「自分のせい」とか「誰かのせい」とか
それに余計なものをつけようとするの?」


「失ったものが
「大切だった」
「愛してた」
それでいいんじゃないの」


「それで終わりにすればいい
それを自分のせいにしなくていいよ
誰かのせいにしなくていいよ」








「何度だって言うけど、きみのせいじゃない」




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