ことほぎのきみへ
「未完だと値が付かないからって
俺にそれを完成させるよう押し付けてきたり
母さんの後釜に俺を据えようとしたり…」


「母さんの作品なのに
俺は母さんじゃないのに」


「それに
それをわざわざ母さん達の葬式でする話じゃないだろって思った」


「静かに見送ってあげたかったのに
響くのは欲に満ちた醜い言葉ばかりで」


「最後まで俺は泣くことも出来なかった」


「悲しむ暇もなかった
周囲の母さんの作品や才能への執着が強すぎて」


「その穴を埋める代わりを俺に求めるから」


「……似てるからって、俺はあの人にはなれないのにね」


「誰も、その人の代わりになんてなれないのに」


「なんでそんな簡単な事が分からないんだろうね」




……静かに紡がれる言葉は少し怒りを伴っていて

だけどそれ以上に悲しそうで

言葉の最後に浮かべた表情が

諦めるような微笑みだったのが


苦しくて



「…あの絵」

「絵?」

「花と、人の絵……
頼まれて……描きました……?」

「……ああ、見た?
ひどい出来だったでしょ」



……違うって思った


あの絵はひさとさんが好きで描いた絵じゃないって



「……なんか、もう言い返すのもめんどくさくなってきて
一作品仕上げて終わるならいいかなって思って描いたんだけど」


「…」


「駄目だね嫌々描いた絵は」
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