ことほぎのきみへ
「承諾したわけじゃないよ
ただ、描いておこうかなって思っただけ」

「…」



……どちらにしろ

ひさとさんが嫌な思いをして描いた事には変わりなくて

望んでないことをする辛さや苦しさは

身に染みて知っているから


だから余計にひさとさんの事が気がかりで



「…ちょっと今日は疲れた」


深くため息をついて
またベッドに倒れるひさとさん

光を遮るように目元を腕で覆い隠す



……私は


……
……


「…………いろは?」


ひさとさんのほっぺたをつねる

覆い隠してた腕を除けたひさとさんは
不思議そうな顔で私を見上げた


「痛いですか?」

「いや、全然」

「痛いですよね?」

「だから痛くは……」



「だから、泣いてください」


……
……
……


「……既視感あるなって思った
俺が前にきみにしたね、これ」


きょとんと

目を白黒させてたひさとさんが
思い出したように呟く



「……お願いですから…………泣いてください……」


小さな声で祈るように懇願する


悲しい気持ちを内に抱え込んでいるから
今、余計にこの人は辛い


それを外に出してあげないと

泣いて流してあげないと


じゃないといつか



この人が壊れてしまう



少し前の私のように立ち上がれなくなって



そこから動けなくなってしまう
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