ことほぎのきみへ
「ありがとう」


ひさとさんがほっぺたをつねる私の手を取って

柔らかく言った



「でも、ごめん」




「泣き方、思い出せない」




……また



あの笑顔



悲しいくらいに優しい表情




「…」



……そんな顔、しないで



胸が、痛い


締め付けられて


苦しくなって


呼吸がしずらくなる




「…」




泣きたくても泣けない人が目の前にいるのに


今、一番泣きたいであろう人を差し置いて



「…」



……涙を耐えられない私は、弱くてずるい



「いろは」



起き上がったひさとさん


すっと頬に両手が伸びてきて


こつんと額にひさとさんのそれが当たって



「ありがとう。俺の代わりに泣いてくれて」



……向けられるのは、どこまでも深い優しさ



……
…………ごめんなさい


何も、できなくて…


悩みを消し去ることも出来なくて


うまくガス抜きさせることさえもできない




情けなくて

まともに顔が見れなくて

そのまま目を閉じた



それでも涙は止まらない


何度も何度も頬を伝う




「ごめんね」




……ひさとさんの声は

いつでも落ち着いてて優しくて

耳に心地いいはずなのに




「ありがとう」




この時は


聞いててとても



……とても、痛かった

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