私のかみさま
そのひとは小さく息をついて



「お前、名前は?」



そう訊ねてきた



「…。……………………佐奈」



正体不明の不審者に
名前を教えていいものか悩みつつも、結局答える



「…佐奈?」



名乗るとぴくりと眉を動かし、復唱した

少しだけ
何かを思い出すように顎に手を置いて
沈黙したけど、すぐに顔を上げて



「そうか。いいか、佐奈」



ぽんっと私の肩に手を置く



「死ぬなら、ここじゃないどこかで死ね」



きりっと真剣な顔をしたかと思うと

言い聞かせるように
死に場所を変えろと言ってきた



「俺の自宅前で、飛び降り自殺なんてごめんだ」









「………はぁ…、えっと…すみません…」



ひどく迷惑そうに眉をひそめるそのひとに
半ば反射的に頭を下げてしまう


……なんで私
見ず知らずの男のひとに注意されてるんだろう


それも


自殺(しぬ)なんて駄目だ
みたいなお決まりなセリフなら、まだ分かるけど

自殺する(しぬ)場所を変えろって…


……どうなんだろう
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